習志野市、津田沼駅の南口が開発されて、谷津一丁目、二丁目が「奏の杜(かなでのもり)」という地名に変更された。
なぜかというと、にんじん畑がどうのこうのなって、大型の高級マンションが建ったためだ。
マンションを買って奏の杜に引っ越して来た人の苦悩が案じられる。
というのも、きっと不動産会社はかく語りき、というのがくっきり伺えるからだ。
「丸の内にお勤めなら、東京駅までJR津田沼から快速で一本、30分以内(28分)ですよ。新宿なども1時間以内(54分)で行け、どこに行くにも便利です。駅まで5分ですから朝にも余裕が出ますよ。幕張新都心のマンションですか?4LDKから3LDKにご変更されるのなら同じくらいのご予算で組めますが、千葉市は税金が高いですよ。それにお車をお持ちでしたらすぐに行けますし、京葉線も東京駅まで行きますが、風でよく止まります。14号を通ってららぽーとやIKEA、ビビットのドッグランにも行けますし奏の杜というブランドもありますしね。都心から程よく離れているので自然豊かですよ」
実際には14号は混むは快速も混む。
津田沼駅の南口と北口は駅構内から行くか、遠回りしなくては行けないので、きっぱりと格差が生まれている。
ある店舗に行った時にはバーバリーの長袖を雑に腰に巻き、帰りには羽織って帰るご婦人を見かけた。日焼けを意識しているのだろう。ダイソーの日焼けカバーではだめなのだろう。なぜか?
マッサージを受けるのにグッチのTシャツで来る男性。
お誕生日にカルティエのダイヤびっしりの腕時計を買ってもらったというご婦人は「前のフランクミュラーが可哀想ですね」と持ち上げられてる。
そんな人がいっぱいいる。犬の首輪と紐がヴィトンだかなんかの犬もいた。なんだろう、この南口と北口の格差は、と考えた。
私が小学生くらいの頃に父親の会社の人が来ては「津田沼のお嬢様」と私の事を言っていた。私は津田沼以外にも娘がいるのかと案じたが、そうではなく「お嬢様なのに津田沼とかwww」っていう意味だと思う。
それと同じように「確かに幕張にはイオンもコストコもアウトレットもあるし、船橋にはららぽーともドッグランもIKEAもあるけど、津田沼にはなんっっっっっもないじゃない!!!!なによ『自然豊か』って。干潟じゃない。失敗した。あと1千万も無理すれば港区に住めたかも。タワーマンションじゃなくても駅近じゃなくてもよかったじゃない、地下鉄もあるんだし。でも失敗したなんて認めない。もう怒ったお誕生日はカルティエ買ってもらう!!!1それにここは『津田沼』じゃなくて『奏の杜』だから。一緒にしないで頂戴」
と思っているに違いなく、しかし悲しくも「奥様どちらに住んでらっしゃるの?」と会社の人なんかに聞かれた場合「奏の杜ですの」「 奏の杜、素敵な地名ですね。どちらですの?」「習志野ですのよ。便利ですし、自然豊かで・・・」「習志野って自衛隊があるところ?」「いえ、あの習志野自衛隊は船橋市にございますの」「え??じゃあ東葉高速鉄道の北習志野辺りかしら?大手町まで一本ですしね」「ちち、違いますのー!あそこも船橋市なんです」「じゃあつまり習志野ってどちらなんです?」「つ、津田沼よ・・・」「あら、津田沼って習志野市にあるの?にんじんが有名よね」「にんじんなんて知らない。津田沼じゃなくて奏の杜、そんな事より見てこのカルティエの時計!!犬の首輪!!」
となるに違いなく、そのためにはカルティエの時計が必要で、ご主人は「高い嫁だな・・・」と思っているかもしれない。そして娘さんは「津田沼のお嬢様」と言われているかもしれないと思うと私も辛い。それに「津田沼じゃなくて奏の杜のお嬢様なの」とよくわからない事になっているかもしれない。
しかし奏の杜が出来たからか知らないが、習志野市の人口が16万人から17万人に増えたそうだ。当然その分の税収も望め、富裕層の方々のおかげで習志野市の財政赤字8兆円がすこし、減ったかもしれない。
それに富裕層の方々は高ければ高いほど安心感を覚えるだろう。だからきっと美容院なんかも高いのだろうと想像する。これらは私のたんなる想像で、マンションを買っても尚、ありあまる富を保有しているだけなのかもしれない。
奏の杜に地名を変更したのは英断だと、この場合は思う。地名は環境を表している事が多いので、あまり変えない方がいいのだけど。
私が言うのも変だけど、奏の杜に住んでくれてありがとう、と言いたい。
そしてせっかくだから楽しい生活を送ってくれる事を。
昔、と言っても小学生のころ、書店に行ったら旅の雑誌がいくつかあった。
東京、大阪、京都、福岡、北海道、名古屋…etc.
それらを眺めていて私はピーン!ときたね、ピーン!と。
賢い子だったからね。
「名古屋だけ県じゃない!!」
正式には愛知県名古屋市なのはたぶん知っていた。
だけど「愛知」という本はなく「名古屋」なのはなにか理由があるはず。そこに気づく私ってさすが。
愛知県の中でも特筆すべき名古屋の事がこの本の中には書いてある、と、難しい言い回しでは考えなかったと思うけど「日本のアツいスポット!それは名古屋なのでは!?あと3文字だしかっこいい」と考え、購入して家で読んでいた。
親は「なんで名古屋の本なんか買ってくるんだ!?」と言っていたけどきっと名古屋の魅力をまだ知らないんだろうと思った。名古屋には名古屋城があり、金のしゃちほこがあり、中日ドラゴンズがある。千葉にはない。
千葉ロッテマリーンズがあるじゃないか、という人のために念のため書いておくと、あれはもともと「川崎ロッテオリオンズ」だったのであり、川崎球場では当時閑古鳥が鳴いており、客席の段差を利用して流しそうめんをしたりしていたらしい。それはそれで味わいがあるな、と思う。
私は早速中日ファンになり「燃えよドラゴンズ」を覚えたり、急にプロ野球に興味を持ったりした。
その頃迷い犬が学校の帰りについてきて、うちに上がりこんでお菓子なんか食べるようになった。
当時ペットブームの最初の頃でうちもペットが欲しいと親に言い、私と弟はその犬を飼いたいと言い張った。汚い犬だった。
許可が降りて犬の名前を決める時に私は「立浪がいい」と言った。
名古屋にあるドラゴンズで当時一番活躍していた立浪だからこの犬もすごくなる、みたいな理由だった。
そんな理由が全くわからない弟はまだ名古屋の魅力に気づいていないんだろう、と思ったけど弟はもともと巨人ファンであり、少年野球もやってるくらいだから「そんな事いうなら『篠塚』がいい」となぜか苗字で対抗してきたので「苗字をつけるのはおかしい」と言ったら「立浪も苗字なんですけど〜」とか言ってきた。
最終的には今シーズン中日が勝ってるからということで犬は『立浪』と名付けられた。
犬の状態を調べるのに動物病院に連れて行ったら、立浪のお腹の中は寄生虫だらけで治療できない、と言われたらしい。
でもそれがどんな意味なのか、わからなかった。
ある日立浪は首輪を抜けて逃げた、と言われた。
今まで自由だったから嫌だったのかな、と思った。
弟は泣いていた。
今でも弟が帰ってくる時は立浪の話をすることがある。
「立浪のお腹に寄生虫がいて…」
「立浪は首輪を外して逃げた…」
など言っていると店内でちょっと振り向かれたりする。
立浪、ちょっとしかうちにいなかったけど、ありがとう。